[45] CT-FEM Opera ⅲ(歯車かみ合い応力解析)


45.1 概要
   2014年に発売したCT-FEM Opera は数々の検証を行い,数多くの実績を持つソフトウェアですが,今回,演算速度を上げるため並列処理プログラム化としたCT-FEM Opera ⅲ に生まれ変わりました. 例えば,mn=2,z1=z2=20, α=20°, β=11°,b1=b2=10の歯車を3D-FEM解析(要素数18335,節点数29638)する場合,ピニオン回転角 θ1=-9°~+9°を20分割して解析すると40個の歯車を計算することになるためCT-FEM Opera(旧)では1分45秒×40=70分要します.しかし,CT-FEM Opera ⅲ(新) では13分43秒で完了します.CPU の稼働状況は,図45.2 のように並列処理をしていない場合は12%の稼働率ですが,並列処理をしている場合は95%です.ただし,比較に使用したコンピュータは,Microsoft Surface Pro3 (CPU: Intel® CoreTMi7-4650UMemory, 8.0GB,2コア4スレッド動作周波数1.70GHz ターボブースト時3.3GHz)です


   CT-FEM Opera ⅲは,歯面解析を充実させフラッシュ温度,摩擦係数,油膜厚さ,伝達誤差解析,フーリエ解析,スカッフィングや摩耗の発生確率そして寿命時間も計算することができます.また,歯面端部接触解析や最適歯面修整機能(組み立て条件下における歯面応力が最小となる歯面形状を生成)も付加していますので,端部損傷やトロコイド干渉による損傷や騒音が発生している歯車に適正な歯面修整を施すことにより解消することができます.また,アニメーション機能(応力や変位の動画)も追加していますので回転角度における応力や変位の変化を観察することができます.そのため,損傷が発生した歯車の諸元で解析すると応力分布現象を容易に把握することができますので,現状歯車の改善やユーザーへの説得には非常に有効です.更に,ソフトウェア使用時に不明な内容があれば[F1]キーを押すことでその説明が表示されますので初心者でも容易に使いこなすことができます.図45.1にソフトウェアの全体画面を示します.
歯面損傷実験の解析例を付録[I] に,伝達誤差解析例を付録[J] に,そして動力損失解析例を付録[K] に示しますので是非ご覧ください.
45.2 ソフトウェアの構成
   CT-FEMOpera ⅲの構成を表45.1に示します.表中の○は,基本ソフトウェアに含まれ,◎はオプションです.
適応歯車:インボリュート平,はすば歯車(外歯車,内歯車)


45.3 基準ラックの設定(ツール,プロパティ)
図45.3に設定画面を示します.
・歯車の組み合わせ:外歯車×外歯車,外歯車×内歯車
・基準ラック:並歯,低歯,特殊
・歯先円決定の方式:標準方式,等クリアランス方式
・転位係数と中心距離の関係の選択
・並列処理を有効にするスイッチ
・歯形誤差の影響を考慮するスイッチ


   歯車寸法は,各部寸法,かみ合い率,すべり率,歯厚などを計算します.アンダーカットが発生している歯車のかみ合い率は,TIF(True Involute Form)径を基準にかみ合い率を決定します.また,歯先にC面や丸みがある場合はCまたはRを考慮したかみ合い率を算出します.

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(1)中心距離と転位係数の関係は,以下の3種類です.
   <1>転位係数をピニオンとギヤに与え中心距離を決定
   <2>中心距離を基準として各歯車の転位係数を決定
   <3>転位係数を無視して任意に中心距離を決定
(2)転位係数の設定方式は,以下の4種類です.
   <1>転位係数を直接入力
   <2>またぎ歯厚を入力して転位係数を決定
   <3>オーバーピン寸法を入力して転位係数を決定
   <4>転位量を入力して転位係数を決定
   転位係数の入力は,転位係数を直接入力方法以外に,歯厚を基準にして転位係数を逆算することもできます.図45.4に諸元設定画面を図45.5~45.6に寸法結果を示します.


45.5 2Dかみ合い図,レンダリング
   図45.7に正面かみ合い図を示します.補助フォームで基準円直径や作用線を作図することができ,スクロールバーで歯車を回転させることができます.また,歯形を拡大することも計測するこもできます.また,歯形レンダリングを図45.8に示します.


45.6 かみ合いグラフおよびすべり率グラフ
   図45.8にかみ合いグラフを示します.このグラフでは横軸にピニオンの作用線長さを,縦軸にギヤの作用線長さを示していますのでかみ合いの関係が良く解ります.図45.9の場合,ピニオンの接触直径が50.030mmのときギヤの接触直径は139.969mmです.また,そのときのピニオンの作用線長さは9.749.657mmで,ギヤは27.145mmです.さらに,図45.7の正面かみ合い図と連動させることができますので歯のかみ合いも把握することができます. 図45.10の回転角度計算(図45.9中の[回転角度計算]ボタン)は,接触直径,作用線長さ,ロールアングルそして回転角度の関係を計算するための補助計算機能です.また,図45.11にすべり率グラフを示します.


45.7 歯面要素設定
   図45.12に歯面要素設定画面を示します.ここではトルクとヤング率,ポアソン比そして歯形の分割数を設定します.ヤング率,ポアソン比をプラスチック材料とすることによりプラスチック歯車も解析することができます.

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解析歯形は1歯,3歯,5歯を選択することができますので,例題歯車のように全かみ合い率が大きい場合には5歯を選択します.また,ピッチ誤差を与えることができますので例題歯車では,ピニオンに6μmのピッチ誤差を与えて解析する例を示します.


45.8 歯形歯すじ修整設定
   定型の歯形修整および歯すじ修整は各々3種類(Type1~3)あります.本例で与えるピニオンの歯形修整を図45.13に,歯すじ修整を図45.14に示します.ただし,ギヤは無修整とします.


45.9 歯面3D修整設定
   D歯面修整は図45.15のように直接入力することもできますし,図45.13および図45.14で設定した修整を引き継ぐこともできます.図45.15は,図45.13と図45.14で設定した修整を3D表示したものです(ギヤは無修整のため省略).また,この歯形をCSVファイルで出力 することも,歯車検査結果データ(CSVファイル)を読み込むこともできます.


45.10 修整量・歯面応力3D図
   図45.15で設定した歯形を3D図で確認することができます.補助フォームで歯車を回転,ズームすることができ,中心距離誤差や組み立て誤差角度を与えたときの歯当たりを確認することができます.図45.16(a)は歯面修整を持つ歯形を表示したもので,(b)は,それに理論歯形(ピニオン赤色とギヤ青色)を重ねた合わせた図です.また,図45.17に歯面要素メッシュモデルを示します.


45.11 歯面応力解析条件設定
   歯車諸元やトルクそして歯面修整を与えたときの歯面応力を解析します.解析角度範囲の設定は,1ピッチ角度と最大接触角度の2種類あります(任意の角度設定は可能).ここでは例題として図45.18のように開始角度θS=-28.578°,終了角度θe=36.102°(最大接触角度θmax=64.68°)を60分割し,食い違い角誤差をφ1=0.01°,平行度誤差をφ1=-0.001°と想定し計算します.この軸角誤差は,負荷により軸受や歯車箱が歪んだときの誤差角であり,この原因により歯当たりが変化し応力分布に変化を生じさせます.


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45.12 歯面応力解析結果(修整量・歯面応力3D図)
   45.19のように歯によって応力分布が変わりますが,図45.20は,最大応力を全歯に示していますので全歯同じ応力分布です. 図45.21は,歯面応力の最大と最小を示したものであり,最大歯面応力はピニオン回転角θp=14.177° 時であることが解ります.


   歯面全体の応力分布(セル表示)を図45.22に示します.ピニオンの場合,歯幅方向に98個(歯幅面取り部含む),歯たけ方向に90個(歯先面取り含む)の領域の応力を表示しますので歯面位置における応力値が解ります.また,ここに表示している応力値はCSV ファイル で出力することができます.
   各々の回転角時の応力は,図45.23のようにピニオン回転角に応じた応力分布を連続して表示することができますので応力変化と接触位置を把握することができます.


45.13 フラッシュ温度,摩擦係数,油膜厚さ 他
   フラッシュ温度を計算するときの設定画面を図45.24に示します.ここでは,回転速度,歯面粗さの他に材料(熱伝導率)を選択します(図45.25).潤滑油の種類は鉱物油,合成油を選択することができますが,規格外の場合は,任意に動粘度や油の平均温度などを設定することができます.フラッシュ温度,摩擦係数,油膜厚さの計算結果を図45.26~45.33に示します.また,スカッフィング発生確率,摩耗の発生確率を図45.34に示します.


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45.14 端部解析(オプション)
   45.11~45.14項ではインボリュート歯面について解析しましたが,ここでは歯先や側面部の端部解析(図45.35, 端部をR=1.0mmと設定)をした結果を示します.
   解析の結果,図45.36のようにピニオン歯元とギヤ歯先にσHmax= 4075MPaもの大きな応力が発生します.フラッシュ温度はインボリュート歯面の解析では図45.26のように歯先部で58.5℃だったものが端部解析では図45.37のようにピニオン歯元で182℃に大きく上昇していることが解ります.


45.15 FEM解析
   図45.12の解析条件で,FEM解析するため図45.38でメッシュモデルを作成します.ここでは標準モデルでメッシュを作成しますが,設定の方法は歯形を精度で決める方法と歯形を分割数で決める方法の2通りがあります.メッシュ分割した歯形は,図45.39のように2Dメッシュモデルで確認することができます.また,3D-FEMメッシュ要素は要素数と節点数を図45.40に,節点座標を図45.41のように表示することができます.


   次に,図45.38で設定したメッシュモデルでFEM解析をする例を以下に説明します.図45.18の歯面解析設定で設定した角度(-28.578°~36.102°)を図45.43のように設定して(角度飛ばし選択)FEM解析します.この□のチェックには歯面応力が最も大きいθP=14.177°(図45.21)の角度も含めています.また,60分割全てを解析するとメモリ消費と時間を費やしますので必要なかみ合い角度のみ選択し計算することが有効です. FEMで解析する項目は,図45.44に示す応力と変位そしてひずみの3種類です.FEM解析結果を図45.45~45.49に示します.変位図は,図45.48のように100倍(倍率選択:1, 5, 10, 50, 100, 200, 500倍)で表示することができます.

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   図45.43ではピニオン回転角度をθp=-28.578~36.102°(図45.18)として解析していますのでこれを整理すると図45.50のようにピッチ誤差(図45.12,6μm)を与えていることから歯元応力が大きく変化していることが解ります.
図45.50で最大値を示す角度はθp=20.75° で,その最大応力はσ1max(P)=555MPaとσ1max(G)=638MPaです.この角度での解析一覧表を図45.51に示します.


   解析結果一覧表でピニオンの最大主応力の最大値σ1max= 555MPaの要素番号は37762ということが解りますので,この番号を図45.52の「点滅」に入力すると応力分布図(○印中でが点滅します)で確認することができます.また,FEM解析完了後,図45.53のように歯幅方向の任意の位置での応力を表示することができます.図45.53は歯幅中央断面位置(zd=0mm)における応力分布を示しています.参考のため,解析角度範囲における歯元応力分布を図45.54に示します.


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45.16 寿命時間
   歯面応力解析およびFEM解析後に寿命時間を計算します.ここでは材料の歯面強さに対する許容応力値をσHlim=2000MPa,曲げ強さに対する許容応力値をσFlim=400MPaとしたときの寿命時間を図45.55に示します.


45.17 回転伝達誤差(オプション)
   図45.18の歯面解析設定画面で与えた回転角度内での回転伝達誤差を図45.56に,フーリエ解析結果を図45.57に示します.


45.18 最適歯面修整量解析(オプション)
   図45.14のように歯面修整を一様に決めるのではなくトルク,ピッチ誤差そして軸角誤差を考慮したとき歯面応力が最小となる修整量を決めることができる機能です.適切な歯面修整を施すことにより発生する歯面応力を低減させることができます.
   例として,図45.4歯車で図45.58のトルクで図45.59のように軸の食い違い誤差をφ1=0.01°,平行度誤差をφ2=-0.001°として修整振り分け比を0.5としたとき歯面修整は図45.60のような歯面修整(最適歯面修整で生成した歯面形状を微調整済み)を得ることができます.この歯面修整を基に歯面応力,フラッシュ温度,摩擦係数などを計算した結果を図45.61~45.66に,歯元応力を図45.67に,そして寿命時間を図45.68に示します.
   その結果,歯面応力はσHmax=2295MPa(図45.20)からσHmax= 1637MPaに低下しているため歯面に対する寿命時間も大幅に延びています.



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45.19 内歯車の解析(オプション)
   「外歯車×内歯車」の解析結果を図45.69~45.84に示します.



※1図45.15で与えた歯形や最適歯面修整で生成した歯形をファイル出力(3D-IGES)することができますので解析や加工に使用することができます.
※2 応力解析例を付録[I]に,伝達誤差解析例を付録[J] に,そして動力損失解析例を付録[K]に示しますのでご覧ください.

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45.20 動的起振力解析(オプション)
   高速回転機械の増加に伴い,歯車の動的挙動の解析が重要となってきているため,オプションとして動的起振力解析ソフトウェアを開発しました.はすば歯車は接触線が歯車軸に対して平行でないことから歯面の接触を3次元的に解析する必要があります.CT-FEM Operaⅲでは図45.85のモデルに基づき振動解析を行い,図45.86のようにRotational(回転),Transverse(正面),Tilting(傾き),Axial(軸)の4種類の方向の振動加速度を出力します1).


   論文2) に示されている実験結果との比較で本ソフトウェアの解析結果の検証を以下に行い,その結果を図45.87~45.103に示します.図45.87の歯車諸元から図45.90までは基本ソフトウェアの操作と同様です.動的起振力解析を行うために図45.91の解析諸元で歯面間減衰比を設定しますが,ここでは鋼歯車対のため減衰比をζg=0.07としています.ただし,プラスチック歯車の解析では別途減衰比を設定する必要があります.


また,回転速度の上下限値と解析回転分割数,x, y, z方向および回転方向θx,θy,θz方向の減衰比を設定します.


動的起振力解析用に歯車寸法を図45.92のようにボス径,ボス幅および歯車材料の比重を設定します.歯車と同様に図45.93の ように軸寸法を設定し,軸受のばね剛さ(KA,KB)を設定します.そして画面下の[確定]ボタンで計算を開始します.

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動的起振力解析後には,図45.95~45.98のように振動かみ合い
1次成分表を表示することができ,円周方向の振動かみ合い1次成分グラフを図45.99~45.102に示します.そして,図45.99の画面上部にあるボタンで図45.103の音データグラフを表示し,その音を(1次音)聞くことができます.また,図45.104では回転速度に対応した小歯車と大歯車の音圧レベルグラフ(例題では同歯数のため重なっています)を表示します. 以上のように動的解析を行うことで振動・騒音の低減を図れる設計ツールとして非常に有効と考えます.解析結果の確認のため図45.105に論文の実験値と比較した結果を示しますが良く一致しています.なお,図45.105のTransverseとTiltingの東工大の実験結果は回転座標系での測定のためZ-1次とZ+1次に分かれて計測されますが,本解析は静止座標系での値となりますのでZ次として表示しています.


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   図45.87~図45.105では同歯数の解析結果を示していますが,歯数の異なる解析結果例を図45.106~45.109に示します.

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参考文献
1) Kunihiko MORIKAWA et al.,” DYNAMIC VIBRATION ANALYSIS OF HELICAL GEAR SYSTEM”, Proc., MPT2001(2001)
2) 王韶峰,梅澤清彦,北條春夫,松村茂樹,はすば歯車系の振動解析(第一報,起振力を考慮した多自由度シミュレーションの開発),機論C編,62巻600号(1996.8),pp.3275-3282

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